インタビュー

菅 武雄 先生 インタビュー - ケアマネジメントとクリティカルパス (2003/5/21)

  1. クリティカルパスの概念と介護の抱える問題点
  2. クリティカルパスの導入にまつわる問題点(1)
  3. クリティカルパスの導入にまつわる問題点(2)
  4. 介護現場のこれからに必要なこととは?

取材・文 / 浅野裕見子

介護保険制度の施行から1年。次第に明らかになってきた問題点の数々を分析しながら、クリティカルパスという新しい方法論の導入を研究している菅先生のインタビュー。シリーズ最終回は、介護の分野全体の方向性と、ケアマネジメントの明日について伺いました。 (本文中敬称略)

4.介護現場のこれからに必要なこととは?

――― 現状の把握、情報の共有と、さまざまな問題点についてうかがいましたが、現在ケアのアセスメントは有効に機能しているといえるのでしょうか?

アセスメントは重要だと言われ続けていて、現に努力もされているとは思いますが、内容が多岐に渡りすぎて対応できていないのが現状でしょう。現在、さまざまなアセスメント方法が採用されて、われわれもその実務研修を経てケアマネージャになったわけですが、実際には習ったようなアセスメント方式は使われていません。MDS(ミニマムデータセット)などのアセスメント方法がなぜうまく活用されていないか。280もの質問項目から情報を集めてみても、その集め方が現実に即さないために、得られる結果は単なる問題領域の確定にとどまっています。実務がわかっている人にとっては、問題領域などすでにわかっているわけで、そこに該当の利用者をあてはめる作業をしているに過ぎないんです。アセスメント方式が有効に機能していないというのは、現実的な効果がないからだと言わざるを得ないし、また、何かが不足している結果であり、その不足を探るにはさらに冷静な現状分析を進める必要があります。問題を整理し、カテゴリーに分類して、各論を分析する。方法論というものはどのジャンルにおいても、常に現状に合わせて変化するべきだし、それこそが発展の証拠なのです。カテゴリーというものは、分類が進むにしたがって自分のスタンスがよく見えてくるものです。病気の分類でもそうですが、ひとつのスタンスがはっきりすると、その隣の病気が見えてくる。するとまた別の病気が見えてくるという特徴があり、そうして病気の分類は非常に盛んに行われています。発展している学問分野ほど、その変遷はスピーディで、変化し続けています。新しい分類で病名が変わり、考え方も変わる。原因の分析が進み、治療法が変わる。そうした成長が介護のジャンルにも不可欠です。

――― 介護保険制度と介護サービスの提供が今後も発展を続けるには、クリティカルパスを含めた介護分野ならではのツールが必要になるのでしょうか?

看護の仕事が長い年月をかけて『看護学』にまで昇華したように、介護にもその可能性があるとお話しました。まして多職種が寄り合ってできた資格なのですから、その可能性にはより有利なはずなのです。医療におけるクリティカルパスのようなシンプル過ぎるシステムではかならずしも対応しきれない分、山積みの課題を一つひとつ解決しながら、独自の方法論の確立が必要でしょう。

介護保険の中での今後の展望を語る上で、必ず問題になるのが行政と現場の関係です。行政の果たす役割と現場の役割が今以上に整理され、そのパイプ役がどれだけ潤滑に機能するか。そして最も重要なのは、そこでやりとりされる情報がどれだけ有効に活用できているかということです。現在でも行政側の、訪問調査員などは、利用者の家族構成はもちろん、その性格などかなり細かいことまで知っていて※1、そうした情報が介護認定に反映されることもあるのですが、そうした細かい情報がうまく活用できているか、というとまだまだ問題がある。今は紙情報で若干共有化の動きを見せていますが、それも該当する利用者との関係が終わってしまえばその人のファイルにしまい込まれてそこでENDです。やがては倉庫に回されてしまって、大切な事例がずいぶん後になって発見されるなんていうことは、認定審査の場にいても経験することがあります。

介護は人間の、それも生活に密着した仕事ですから、それだけ巨大であり、やりがいも大きく、そして答えの出ない仕事でもあります。医療とも看護とも福祉とも違う、介護分野の独自性をケアマネージャ自身が組み立てていければ、介護は学問として確立できるでしょう。そのためにも、介護独自の、理論に裏付けられた方法論なりツールなりが必要なのは間違いないでしょう。

※1 横浜市では訪問調査は市職員によって行われている。多地区では民間の手を借りて行われているところもあります。

――― 介護ならではの独自性を確立するために、まずは多職種出身のケアマネージャが過去に培った経験やスキルを生かせることからスタートするといいですね。

今回お話しているクリティカルパスは工業の世界から医療・看護のジャンルに導入され、そこから持ち込まれたコンセプトのひとつです。クリティカルパスに限らず、みなさんは実は、もっといろんなことを知っているはずなんです。なにしろ各分野の専門家なのですから。もっと各ジャンルで活用されているツールがあるはずなのに、自分でも気づいていないから表面で活用できない。ナースが努力して形にしてきたのがクリティカルパスですが、パスはもともと医者の頭の中にあったと言われているんです。医者が頭の中で組み立てていた、個々の患者の診療計画やそのための指示を、普遍的で明確な形にしたものですから、そのプロセスはどの職種にもあてはまるはずなんです。専門性のある職種の人なら、誰もが知らず知らずのうちに持っている、専門職なりのヨミだとか、ノウハウは言葉に出来ない情報として各ケアマネージャの中にあるんです。それが集まる場がカンファレンスであり、ネットワーク上での情報交換にもそういったノウハウが紛れ込んでくるはずです。それを見過ごさずにすくい上げる意識が必要です。誰かの知恵をみんなで共有できるようになれれば、もっと参加者が増えて個々へのフィードバックも利き、情報共有が広がりを見せるようになれるでしょう。そのための第一歩は、ネットワークの中で、自分の専門性を意識することです。自分の考えや使っている言葉を意識する。そうすることで自分の専門性もより高まるし、ケアマネージャとしての意識も高まるはずです。各ジャンルの専門性が背景にあってこその、ケアマネージャという特殊な職種ですから、今後はそうした二重の専門性を高めるような仕組みになっていくのが望ましいでしょう。ケアマネージャになったから、ナースをやめる。のではなく、ケアマネージャとして存在する組織の中で、改めて自己の専門性を高めていく。自分の専門性に気づくことができれば、同時に自分に何が足りないかにも気づけますよね?自分の不足を知ることで一歩成長できるし、「調べる」「教わる」という行動にも出られる。ネットの上に情報が集積されていけば、いつでもどこでもそこにアクセスすることで、人との衝突や摩擦を受けることなく勉強することができるというわけです。

――― 最後に、ケアマネジメントの現場でたくさんの問題を抱えている、この現状を打破するには、どんな考え方に立つのがいいと思われますか?

介護保険制度が始まって1年が経ち、予想していたこと予想外だったことも含めて実にさまざまな問題が出ています。さらにさまざまな業者がこのジャンルに参入してきて、事態は混沌としていますが、ともあれいろんな人種が参入してくること自体はいいことだと思います。そうした人たちの収入がさまざまな方法で得られるしくみが広がってゆくのはいいことです。医療の世界でも、医療保険は医療関係者しか得られなかったものが、医療機器を作るメーカーにもお金が入るようになりました。法律が改正されて、在宅でも医療の場として認められるようになるなど、変化の流れができてきているのは間違いありません。人がどんどん参入して、収入への道が確保されつつある、変化変遷が続いてゆく、というのは、この業界が伸びていることの証です。それだけ競争も激化し、面白味も増していくでしょう。今後は資格があるとかないとか、そういうことよりも、人よりも何かを知っている、何かができる、ということが武器になっていくと思います。

ケアマネージャという専門職は、制度が変わったことで法律によって生まれたものです。

半ば強引に、人工的に作られた専門家なわけですが、その流れをうまくつかんで本当の専門家になっていかなければと思います。たとえば、自らの立場を努力と研鑚で押し上げ、学問として確立したナースの歴史をかんがみると、わずか1年でケアマネージャがへこたれているわけにはいかないんです。明らかに社会からも時代からも必要とされている専門職なのですから、視線を高く、質も待遇もよくして行きたいですよね。もう机に座って検討している時期ではありません。動き始めてしまっている、その流れの中で、ケアマネージャ自身で、何ができるのかを考えて行くべきだと思います。

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