菅 武雄 先生 インタビュー - ケアマネジメントとクリティカルパス (2003/5/21)
- クリティカルパスの概念と介護の抱える問題点
- クリティカルパスの導入にまつわる問題点(1)
- クリティカルパスの導入にまつわる問題点(2)
- 介護現場のこれからに必要なこととは?
取材・文 / 浅野裕見子
医療・看護の分野で導入されている『クリティカルパス』という方法論。それを介護の分野に導入し、現在の介護が抱えている問題点への指標にしようという研究がはじまっています。 前回の概論に続いて、今回は具体的な導入への問題点についてうかがいました。(本文中敬称略)
2.クリティカルパスの導入にまつわる問題点(1)
――― クリティカルパスというものがどういう方法論で、どのように活用されているのかは前回伺いましたが、それではクリティカルパスはケアマネジメントの救世主たり得るのでしょうか?
菅前回、クリティカルパスを理解する上での大前提としてお話ししたとおり、クリティカルパスは特定疾患向けの単純な指標であって、複雑な分析には向かないという弱点があります。従って、介護という複雑多岐な分野に当てはめるには、相当な変更が余儀なくされるわけで、むしろクリティカルパスのコンセプトだけを利用すると言ったほうが、現状ではよいかもしれません。クリティカルパスの導入について考えるとき、まず先に考えるべきなのは、現状で行われているケアマネジメント、ケアプランの作成作業やその周辺についての問題点を明らかにすることです。
現在、ケアプランを立てるという作業は、一週間のスケジュールをどうやって埋めるか考えることに終始しています。また、その利用者が何万円使えるかは介護度によって決まっているので、たとえば介護度5なら36万円使えるとして、その36万円をどう使うか割り振ることで介護サービスのプランニングが成り立っているともいえます。本来は、その人にとって今何がどう必要かを判断するところから始まるべき作業なのに、すっかり本末転倒になってしまっているのです。何が一番問題になっていて、介護サービスがどう対応できるのか。そうしたクリティカルなテーマをケアマネジャーが意識して、解決のためのサービスを組み立てるようにしないと、満足するプランは生まれないはずです。とりあえず散歩や食事といったサービスで時間を埋める、お金の使い道を考えるのではなく、重点的かつ効果的に何かを提供する考え方がないと、いたずらに介護の点数を伸ばすことになり、ひいては本人の負担を増やし、負担が増えるからサービスを断るという悪循環が生まれてしまっています。
利用者やその家族の目から見れば、日々の生活や介護を手伝ってはもらっている、が、満足できていない。だからサービスの利用状況が50%を切ってしまっている。つまり介護サービスを提供する側にフィロソフィ(哲学、信念)がないからそういう現象がおきてしまうのではないでしょうか。
――― それでは、現状で行われているケアプランニングにクリティカルパスがどのように作用するのでしょう? クリティカルパスのメリットのひとつ、標準化によってバリアランス(標準からはずれた部分)が見つけやすいという特徴を生かすのでしょうか?
菅標準化しようにも、人間の生活はあまりにも複雑です。また、医療と違って、介護ではその人の置かれた環境や家族構成など、周辺のすべてがクリティカルパスの対象となります。したがって、単純に標準から逸脱したものを排除していく、というのは難しいかもしれません。むしろ生活を画一化するよりも、起きている問題の解決にどうアプローチするかという意味でクリティカルパスを活用する。もともとの意味での使われ方とは違いますが、これはあくまで道具ですから、どんどん改善して独自のものを使えばよいと思います。そもそもクリティカルパスはその時々の現状や施設ごとに合わせて変更して行くことが推奨されている方法で、世界共通のパスなどないのです。したがって、介護に用いるクリティカルパスは、そうした進化したものを導入すればいいのです。クリティカルパスの導入とは、決してマニュアル化された介護を目指すものではなく、むしろそれぞれに個性のある利用者の状況をいかに冷静に分析・判断し、その問題点をいち早くみつけて対応するにはどうしたらいいか、そのための方法論なのです。
したがって、それぞれの地域の特性やケアマネジャーの性格、利用者の置かれた環境などを踏まえて、柔軟なクリティカルパスが導入されるべきなのです。
――― クリティカルパスの導入が、ケアマネジメントにもたらすメリットとは、どんなものなのでしょうか
菅起こっている問題をどう分析してとらえ、解決するか。そのためには、日々行われている介護がどのように実行され、どの程度の効果をあげているのか、じっくりと検証し、利用者の状況をリアルタイムに把握する必要があります。そのための方法論が必要なのですが、現在介護に携わっている人たちすべてが現場の仕事に追われています。時間的余裕もなければ、精神的余裕もない。科学的な分析法よりも、寝ずに働いたり長時間残業したりと、パワーでどうにか問題を解決しているのが実際のところです。しかしそれは本来の働く姿とは言えないはずなんです。力技でねじ伏せるほど、介護というのは小さな敵ではないのです。さまざまなツールを使って効率的に問題を解決すること。標準化というより、効率化、仕事の分担の明確化と軽量化のためのツールとして使うべきです。そうすれば各業務の担当者に余力が生まれ、その分をケア内容の評価や見直しの時間に当てはめるべきでしょう。
本来、ケアマネジャーはプランニングに時間を掛けるべきなのです。その利用者に必要なのは何かを考えるのがケアマネジャーの仕事のはずなのに、現実にはあちこちに電話をかけ、業者を選び、苦情を受け付けて処理をすることに時間を割いている。本来の作業にとりかかる時間が少なく、立てたプランがきちんと動いているかどうかチェックする仕事にも時間が割けない。どうしてもプランニングしっぱなしになり、ただプランニング表が業者に届いて、利用者にサービスが届くだけ。それが良かったのどうか、もっといい方法はないのか、などと踏み込む余裕がなくなっています。そういう現状に対して、起きている問題点が有機的に抽出できる明確なツールがワンステップあれば、立てたプランをもう一度見直すことができる。もしクリティカルパスの導入で少しでも余裕が作れるなら、そういうことに利用してもらいたいと思います。確かに書類は一枚増えるかもしれないが、従来の方法を何ら変えることなく、ちょっと冷静にチェック項目をみつめるだけで問題点が少しでも明確になるなら、それは便利なツールと言えるのではないでしょうか。単純に書類が増えるのはいやでしょうが、すでに仕事で活用しているコンピュータで、ネット上にあるパスを利用する、いつでもアクセスできる通信環境を作る。そういう意味でIT化が進むことは本当に有効だと思います。
――― 現実に多忙を極めているケアマネジメントの現場に、クリティカルパスを導入するプロセスはどのように考えられますか?
まず絶対に言えることは、何か新しいものを導入する前に、現状の労働量の軽減を測ることが先決だということです。日々の業務上での負担を増やすことなく、情報ツールとしてのクリティカルパスをいかに理解し、活用するか。それには今さまざまに開発されている情報共有ツールを活用することです。たとえばカナミックのCICシステムのようなネット上でのツールを利用することもその一つでしょう。こうしたアプリケーションがネットワークに乗るということが理解できれば、やがては同じ姿勢、同じ感覚で別なツールも簡単に使えるんだということがわかるはずです。
今までは 仕事が増える=ファイルが増える=書かねばならない項目が増える=対象者の名前や介護保険番号などを一から起票しなくてはならない=明らかに忙しさが増すだけ、という悪循環でした。これでは新しいものに拒否反応がでるのも理解できます。しかし、ネット上にあるツールならば、データは機械的にインプットできるのですから、仕事を増やすことなく、新しいツールが活用できるわけです。ボタン一つで自分のアイデアが動かせる、共有できるということが実感できれば、実務についている人ならその有効性が理解できるでしょうし、導入へのプロセスもそれだけスムーズなはずです。ネット上で共有できるツールが日々の業務に有効で、しかも理論的な裏づけがされているなら、それに勝るものはないのですから。
まったく新しい方法論、しかも柔軟に変化することが期待される『クリティカルパス』の導入。
そのプロセスにはまだまだ課題も多いようです。次回は具体的な導入への障害についてうかがいます。
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