インタビュー

菅 武雄 先生 インタビュー - ケアマネジメントとクリティカルパス (2003/5/21)

  1. クリティカルパスの概念と介護の抱える問題点
  2. クリティカルパスの導入にまつわる問題点(1)
  3. クリティカルパスの導入にまつわる問題点(2)
  4. 介護現場のこれからに必要なこととは?

取材・文 / 浅野裕見子

菅 武雄 先生 プロフィール

菅 武雄 先生

鶴見大学歯学部 高齢者歯学科

平成2年3月 鶴見大学歯学部卒。補綴学第一講座の助手を経て、平成7年高齢者歯科学講座へ移籍(助手)。同年には通産省 第ニ種情報処理技術者の資格を取得。平成10年 介護支援専門員の資格取得。平成11年より介護認定審査委員となり、現在にいたる。

看護・医療の分野で最近導入されているツール(方法論)に『クリティカルパス』というものがあります。そのクリティカルパスを介護の分野に活かせないか?そう考えているケアマネジャーさんたちがいると聞いて、さっそく、お話を伺ってきました。(本文中敬称略)

はじめに"クリティカルパス"って、何?

医療・看護の現場において、「いつ」を横軸に、「誰が何を」を縦軸に配置した治療計画書。(標準的診療過程予定表) 各担当者・関連従事者が行う業務のワークフローを一覧にし、治療開始から最終目標=アウトカム(治癒・退院)までの流れの標準化を図る。

標準化されたケアプログラムに患者や利用者をあてはめることで、標準から外れた部分(バリアランス)が見つけやすくなり、より効率よく、迅速な対応が可能になる。

クリティカルパスは疾患別に設けられ、また各医療施設の特徴に応じて独自のクリティカルパスが設けられるという性質を持つ。同じ方法論を『クリニカルパス』もしくは単に『パス法』と呼ぶ場合もある。

1.クリティカルパスの概念と介護の抱える問題点

――― 先生の原分野である医療の世界では、クリティカルパスという方法論は一般的に導入されているものなのでしょうか?現在の活用状況を教えてください。

クリティカルパス、クリニカルパス、パス法などの言葉は、医療や看護の現場ではおなじみのキーワードです。ただし、クリティカルパスについて語る前に、前提としておかねばならないことがあります。それは、クリティカルパスは特定疾患に限られた方法論だということです。

パスの適用できる疾患と、パスのない疾患は明確に分かれていて、それは病院ごとに決められています。たとえば盲腸炎だとか骨折といった、発症(受傷)から治癒への経過が比較的標準化しやすい疾患にはパスが導入されていることが多いのですが、脳梗塞のように、さまざまな要素が入り混じり、経過に個人差の多い病気には使えないと言われています。が、これも言われているというだけで、実際の導入に関してはまだまだ未知数だといえるでしょう。

具体的に説明すると、発症(受傷)から、だいたい何日後にはどうなって、さらに何日後には糸を抜く。何日後には歩いてもらう。何日後には退院できる"と、目標を設定して治療に当ることをいいます。目標と現実を照らし合わせて、その患者さんのどこが問題になっているのか、問題経路を見つけて解決を図る。そしていかに目標の日数で退院できるか、それが現在のクリティカルパスの使われ方といえるでしょう。あるいはDRG(Diagnosis Related Groups)※1のシステムの中で発展したともいえます。

こうした医療の方法論を、介護の分野に導入したという例はまだ少ないと思われます。比較的新しい方法論ですから使い方はまだ未知数ですが、日本独自の介護スタイルの中で、さまざまな条件が整えば、おもしろい利用方法も考えられるのではないかと期待して、私たち『鶴見ケアネット』※2を中心として研究を進めているところです。

※1 DRG=診断群 国際疾病分類で述べられている1万以上ある病名を、患者への治療内容によって分類する分類手法。
※2 鶴見ケアネット=横浜市鶴見区を中心としたケアマネジャーの有志が集まった連絡協議会。

――― 先生のお考えになる「日本独自の介護スタイル」とはどのようなものですか?

介護にまつわる多様な業種が『ケアマネジャー』という一専門職にマネジメントされて動くというしくみは日本独自といえるでしょう。また、ケアの現場が在宅を基本に考えられており、そこに色々なサービス(医療も介護も看護も)を投入するというやり方は、欧米では見られない、これも日本独自の部分です。また、コンピュータを使った判定方法を採用し、二次判定を人間が行う。利用者に自己負担が発生し、現金ではなくサービスの現物支給を受ける、というやり方も日本独自です。

この、日本独自の介護スタイルの中で問題になっているのは、介護というものの(学問として、技術として、専門職としての)レベルをあげるための、科学的、理論的なサポートをしてくれる要素がないことなのです。ヘルパーはヘルパーの仕事に追われ、入浴サービスは入浴の仕事に追われるばかり。ケアマネジャーもしかり、マネジメントに疲れ果てて、苦情だけが残る。このような現状の繰り返しでは、ただのお手伝いさんで終わってしまうのです。

ではなぜそんなことになってしまっているのか?それはこのシステムに何かが足りないのだと考えていいでしょう。これだけの事業が展開されるためには、理論による裏づけが必要だし、その裏づけをサポートするためにはあらゆるケーススタディのデータを集めることが大切です。その理論的裏づけとしての、介護の分野独自のクリティカルパス導入に意味があると私は考えています。

――― 介護の分野における「理論的裏づけ」とは、具体的にどういうことを指すのでしょう?

最終的な目標は、介護を『介護学』に格上げするということです。かつて「看護」という仕事は医師の下働きとみなされていた時代がありました。その仕事をナースたちが時間をかけて『看護学』という学問にまで押し上げたのです。彼女たちは自らの力だけで努力したために大変な時間が必要とされましたから、その意味ではケアマネジャーのほうが有利な立場にいるのかもしれません。というのもケアマネジャーにはいろんな原職種があるし、それをマネジメントするような専門職種が出来てしまえば『介護学』へ至る可能性だってあるはずだと考えるからです。そのためには、客観的かつ科学的に裏づけされた方法論を取り入れ、介護にかかわるさまざまな専門家(医療や薬学、看護など)がアイデアを出し合って複合的な介護の体系を作ってゆく必要があります。

それがやがて『介護学』へと蓄積されるわけで、クリティカルパスはそのひとつの道具にすぎないのです。医療のクリティカルパスをそのまま導入してもうまくいかないことはわかっています。ただ、クリティカルパスを勉強しておくことで、そういったしくみをどんどん取り入れて、介護を周辺部分から理論的に補強することができるのではないかと考えているのです。

介護という仕事はすばらしいし、社会的にも必要とされていることもわかっているが、日々の介護内容が、本当によかったのか。それが正しい介護だったのかという評価はできていません。そこで、その裏づけのための道具としてクリティカルパスを導入してみてはどうだろうか、ということで鶴見区のケアマネジャーの勉強会や研修会で取り上げることになったのです。

――― それでは、『クリティカルパス』の観点から見て、日本の「医療」と「介護」の違いはどんなところにあるのでしょうか?

クリティカルパスの用語では最終目標を「アウトカム」(結果)と呼びます。医療の世界では同じことを「エンドポイント」と呼んでいますが、医療における「エンドポイント」とは「退院」または「治癒」のことを指します。医療にはそうしたはっきりとした目標や、それに伴う明確な評価軸が存在するのですが、介護には医療ほどに明確な「エンドポイント」が存在しません。それこそが、現在介護関係者の抱える問題の原因のひとつだと思います。

エンドポイントが不明確だから仕事への評価の基準も不明瞭。自分の日々の仕事に対するフィードバックや評価が受けられない。がんばってもがんばっても、同じことの繰り返しに思えてしまう。なんだか永久に続くトンネルに迷い込んだような、達成感の希薄さを感じて、疲れやすくもなる。こうした感情はプロとしての仕事上、非常に邪魔になる感覚であり、この報われない感覚が払拭されなければ、まじめなケアマネジャーほど仕事の継続が困難になります。

――― 現状、介護の仕事には評価のシステムがないのは、新聞などの記事からも問題になっています。大切な仕事なのに、やりがいが感じられない。根本的で重要な問題ですが、クリティカルパスはこの問題にどのように作用できるとお考えですか?

お話したとおり、介護の世界には退院はありません。介護の仕事は対象の利用者が死ぬまで、ある意味では永久に続くという性格を持っています。そのため、ケアマネジャーのモチベーションに関する問題は、無限に発展する可能性があり、その利用者のQOL(Quality Of Life)とは何か、その人の人生は良い人生だったのか?"そういった視点に基づく納得感や裏づけが大切になります。この仕事は得られるものも大きいのだ。だから疲れてもいいんだ、大変で当たり前なんだ、という裏づけがしっかりしないと続かないし、達成感もありませんよね。そこで、クリティカルパスを介護に導入することによって、それを単純な介護計画表というにとどめず、日々の指標(目標)にするという可能性ももあると思うのです。

介護にはエンドポイント(アウトカム)が不明確だ、とはいえ、介護にも目標はあって、現在では「利用者の自立度を上げる(自立支援)」というのが大きな目標になっているわけです。そうした目標があるのなら、評価だって当然あるべきなのですが、法律で謳われている目標であるにもかかわらず、その評価が誰にもできていないのです。

介護の目標が「自立支援」なのだとすれば、利用者の介護度が軽くなるほど評価も高くなるはずです。しかし現状ではそういった評価方法がないし、具体的にどういうことができたら自立度が上がったことになるのか、どんな介護が有効だったのかという情報は、ケアマネジャー個人個人の情報レベルで終わってしまっています。そうした情報は、そこから先の介護認定審査会には届かないし、ケアマネジャーの訪問調査でも、別のケアマネジャーが訪問してしまえば、それまでの経過はどこかに埋もれてしまう。これは明らかにしくみが良くないし、そうした評価システムをケアマネジャー自身が作ってゆかなければ、どれだけ努力し続けても、実績の蓄積が何もないのと同じになってしまいます。仕事の評価が適切にケアマネジャーにフィードバックされ、ケアマネジャー自身の評価や自信に繋がること。それこそが今求められている課題のひとつなのです。

今、現状のしくみを全部変えることはもちろんできません。が、何らかの方法を追求して行くべきであり、そのためには評価のしくみや方法論を明らかにする必要がありそうだ"。制度導入から一年経った今、さまざまな反省点を踏まえながらこの先のビジョンを考えるとき、ケアマネジャーが持たなければならない考え方はそこにあるでしょう。介護の現場を整理・分析して系統だてた方法論を構築する、そういう意味での介護の専門家はまだいません。だとすれば、試行錯誤の現場からボトムアップしていくしかないのです。ボトムアップだけでは弱い理論づけの部分は学問の分野からのアプローチで補い、介護に従事するみんなの感覚にもっとも合う方法を導き、一緒に考えるのがよいのではないか?

私たちはそう考えています。

介護の未来を考えるうえで、「クリティカルパス」は重大なキーワードといえそうです。次回はさらに具体的な導入への課題などを伺ってゆきます。

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